寄稿セルフメディケーション・OTC時代の薬局マネジメント

第1回 薬を「売らない選択」ができる薬剤師をどう育てるか

受診勧奨を薬局の価値に変える

2026/9/23 04:50

 2024年調剤報酬改定で地域支援体制加算の算定要件にOTC医薬品の取り扱いが盛り込まれたこともあり、今やドラッグストアだけでなく、多くの保険薬局でも多種多様なOTC薬が置かれるようになりました。

 特に近年は、医療用医薬品と同成分を同量配合したスイッチOTC薬として、「デキストロメトルファン」のような中枢性鎮咳薬、「ランソプラゾール」などのプロトンポンプ阻害薬(PPI)、さらにストロング(Ⅲ群)のステロイド外用剤などが登場し、セルフメディケーションで対応できる症状の幅は大きく広がりました。

 その結果、薬剤師が患者さんから「どの商品を選べば良いのか」という相談を受ける機会も確実に増えています。

●「薬を選ぶ力」より前に必要なこと

 こうした中、セルフメディケーションの場面で薬剤師に求められる職能というと、「適切な薬を選ぶ」ことが中心と思われがちです。確かに、似たような商品が並ぶOTC薬の棚から、その患者さんに適した商品を選ぶことは薬剤師の重要な役割です。

 しかし、実はそれよりも前に、もう1つ重要なことがあります。それは、「その症状は、本当にOTC薬で対応していて良い状態なのか」を評価・判断し、必要に応じて受診勧奨をすることです。

 処方箋応需の業務とは異なり、OTC薬を購入しに来た患者さんは、基本的に医師の診断を受けていません。そのため、その時点では何の疾患なのかはっきりとしていません。あくまで、患者さん自身が「自己判断」で病院を受診する必要はなさそうだと考えているだけだからです。

●OTC販売の場面に潜む「重篤疾患」

 さらに近年は、インターネットやSNSで医療情報に触れる機会が増えたことで、OTC薬で取りあえず様子を見る、といった行動は、昔よりも一般的になっています。しかし、そこには重篤な疾患の初期症状が、まるで軽い不調のような顔をして紛れ込んでいる、という危険性を常に意識しなければなりません。

 実際、風邪様症状でOTC薬を購入しに来た人の背景に、脳梗塞や結核が含まれていたことも報告されています1)。

 つまり、セルフメディケーションの場面では、薬剤師は単なる「物販」だけでなく、医療における最初の「トリアージ」を担う役割も果たす必要がある、ということです。この役割は、人口減少と医療人材不足が加速するこれからの日本において、医療のシステムを維持するため、ますます重要となっていくことは間違いありません。

●「薬を売らない判断」は評価されにくい

 しかし現実には、この受診勧奨はそれほど容易なことではありません。例えば、受診が必要と判断した患者さんに薬を販売せず、病院受診だけを提案した場合、患者さんからは「せっかく薬を買いに来たのに、何も売ってもらえなかった」と悪印象を持たれてしまう恐れがあるからです。

 さらに、こうした対応で患者さんの重症化を防いだとしても、それは売り上げのように客観的な数字として現れにくく、経営者からも評価されにくいのも難点です。

 このような葛藤の中で、それでも患者さんのために「薬を売らない判断」をできる薬剤師は、とても誠実で貴重な存在と言えます。「薬をうまく選ぶ力」と同じくらい、「薬を売らない判断ができること」もまた、薬剤師の重要な専門性なのです。

●目に見えにくい薬剤師の活躍を、どのように可視化・評価するか

 では、こうした薬剤師の業務を、きちんと可視化し、評価する仕組みはできているでしょうか。「必要時に受診勧奨へつなげる力」は、薬剤師の大きな強みです。この評価・判断ができる薬剤師をどう育成・評価するかは、今後の薬局の価値そのものに関わる重要なテーマと言えます。

 例えば、ちょっとした食品や菓子類、ドリンク剤などを提案できる環境を整えておけば、薬を販売するのが適切でない場面でも、薬剤師は売り上げに貢献することができるようになります。あるいは、何かを販売することはできなくとも、受診勧奨を通じて信頼を積み重ねることで、場合によっては処方箋の新規獲得につながるかもしれません。

 これまで目に見えにくかった、こうした地道な薬剤師の専門性を改めて見直し、適切に評価する仕組みを整えることが求められます。

■文 献
1)恩田光子、他:薬局及びドラッグストアにおけるセルフメディケーション支援の意義―薬剤師等による風邪様症状に係る受診勧奨事例からの考察―.日本プライマリ・ケア連合学会誌、42:98-102、2019

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