能登半島地震により、お薬手帳などを持たずに能登地方から金沢市内に避難している被災者の服薬継続で、オンライン資格確認システムが脚光を浴びている。医療機関・薬局における平時の利用が伸び悩む中、災害時にマイナンバーカードがなくても薬剤情報を閲覧できる機能が、避難者の服用薬を特定する医療者の手間や負担を軽減。特定の精度も向上した。
「2次避難所までのつなぎとなる1.5次避難所は、避難者の入れ替わりのサイクルが1週間程度と短い。どんな薬を飲んでいるか一人一人にじっくり時間をかけて確認する余裕はなく、薬剤情報が役に立っている」
1.5次避難所となっている「いしかわ総合スポーツセンター」(金沢市)に、石川県立中央病院(同市)が開設した臨時診療所から、処方箋を応需する「とくひさ中央薬局」(同市)。薬剤師で管理者の金谷祐希氏は、医師への情報提供や処方箋の監査、服薬指導にオン資の薬剤情報をフル活用している。
●名前、生年月日などから個人を特定
能登半島地震は、医療機関・薬局にオン資の原則導入が義務付けられた昨年4月以降、初めての大災害でもある。マイナ保険証の利用は広がらない一方、オン資の導入メリットの一つが、マイナカードがなくても災害時に患者の服薬情報などを閲覧できる「災害時医療情報閲覧機能」だ。
厚生労働省は地震が発生した1月1日、被災地でこの機能を期間限定で開放。当初は同月7日までの予定だったが、その後、対象エリアを限定して延長し、現時点では石川、富山両県の21市町で2月14日まで利用可能になっている。
対象エリアの医療機関・薬局ではこの間、オン資の端末を通じ、名前、生年月日、住所などを入力して特定した避難者の過去の薬剤情報を閲覧できる。厚労省保険局医療介護連携政策課によると、1月中旬までに約1万2000件の利用があった。
金谷氏によると、1.5次避難所に身を寄せているのはほとんどが高齢者で、半数以上はお薬手帳を持っていない。従来、こうした場合は受診医療機関への問い合わせや、本人からの聞き取りで服用薬を特定していたが、今回はその必要がない。被災者が保険証を持参していない場合、被保険者番号が分かる利点もある。
金谷氏は「持参薬があってもそれが全てとは限らないし、本人に聞いたところで正確かどうか確認できない。薬剤情報がなければ必要な治療が継続できなかった可能性もある」と語る。臨時診療所の処方箋は、金沢市薬剤師会が募った約30の協力薬局が応需し、処方薬を同センターに届けている。
●クリニックでは医師・薬剤師が連携
金沢市のかがやきクリニック(清水雄三院長)でも、親類などを頼りに能登地方から避難してきた被災者を外来や在宅で診察している。お薬手帳やマイナカードを持つ患者はほとんどなく、活用しているのがオン資の薬剤情報。清水院長は「服用している薬が分かるだけで病歴や疾患が推察できる」と重宝がる。
薬物治療をサポートしているのが、薬剤師の小林星太氏だ。閲覧した薬剤情報を基に、処方箋に代行入力したり、患者が持参した残薬との照合作業を院外薬局に依頼したりしている。
小林氏は、石川県内の薬剤師が災害関連情報をやりとりできるLINEのトークルームを作成するなど、地震の発生当初から災害支援活動に携わる。「薬剤情報のおかげで避難先の医療機関でもすぐに処方箋を発行できる。災害医療の業務が効率化したのは間違いない」と話している。(編集委員・笹井貴光)