能登半島地震で大きな被害を受けた石川県穴水町の支援に入った、福井・富山両県薬剤師会と地元薬剤師が連携し、処方箋応需の「穴水スキーム」を立ち上げた。11日から稼働させる。感染症など急性期疾患の災害処方箋はモバイルファーマシー(MP)が、それ以外の慢性期の処方箋は地元薬局が応需するというスキームで、被災した薬局の多くが営業を再開させたことを踏まえた対応だ。県外から派遣される薬剤師はMPでの調剤のほか、地元薬局から避難所への処方薬の配送などを担う。
穴水スキームは「慢性期の薬は地域薬局で」が基本。これまで地域薬局が担当していた患者の慢性期疾患の処方箋は、そのまま地域薬局が担う。地震被害により新たに加わった、▽災害処方箋のうち、急性期疾患の処方箋応需▽避難者への処方薬の配送▽避難所の公衆衛生管理―は県外から派遣された薬剤師が対応する。10日に同町保健センターに到着した和歌山県薬のMPが11日から本格的に稼働を始め、このスキームの一翼を担う。
MPが応需するのは、日本医師会災害医療チーム(JMAT)らが避難所を往診して発行した災害処方箋のうち、感染症など急性期疾患のみ。慢性期疾患は地域薬局に委ねる。10日には7枚の災害処方箋が発行された。これを穴水スキームで対応すると、便秘など4枚はMPで応需し、残り3枚の「いつもの薬」は地元で対応することになるという。
●避難所への薬剤配送も担当、災害派遣薬剤師
派遣された薬剤師による避難所への処方薬の配送は、地域薬局の負担軽減が狙いだ。町内40~50カ所の全ての避難所を配送先の対象にする。渋滞や迂回路を通らざるを得ない場合もあり、10日は福井県薬の薬剤師が、避難所1カ所に6人分を届けた。
同町はほぼ全域で断水。そのため汚くなりがちな避難所のトイレの消毒も、県外の薬剤師が担う。感染症対策の手指消毒の徹底や吐瀉物の処理の仕方の説明、必要に応じた解熱鎮痛剤や総合感冒薬などOTC医薬品の供給も県外薬剤師の役割だ。
●被災地域ごとに求められる医薬品供給スキーム
このスキームは、7日から現地入りした福井県薬の村瀬英樹理事たち派遣された薬剤師と、現地の薬剤師である石川県薬能登北部支部長の原将充氏、同県薬常務理事の竹端裕氏が構築した。断水は続いているものの、穴水町では10日までに大半の薬局が復旧したため、「現地の経営を圧迫してはいけない」と同町内の医療機関による院外処方箋などは地域薬局で応需する仕組みにし、MPでの調剤は限定的にした。ただ、あくまで「穴水」の被災・復旧状態を踏まえたスキームで、村瀬氏は「他の地域では別の仕組みが求められる」とみている。
避難者の中には、お薬手帳などを持たずに避難した人も多く、薬剤情報を得るためにJMATや自衛隊の医療班が地元の薬局に照会するケースもある。問い合わせを受けた地域薬局は、名前や生年月日などを基に薬歴から服薬情報を提供しているという。一方、オンライン資格確認システムについては、「通信環境が安定せず、活用は難しそうだ」(村瀬氏)としている。
●和歌山県薬「全力で頑張る」
和歌山県薬の薬剤師5人は10日、金沢市の石川県薬の事務所から7時間かけて穴水町に到着。大桑邦稔常務理事は「被災地は大変なとき。全力で頑張りたい」と話している。(折口 慎一郎)