閉店間際の調剤室―。 投薬口で、患者さんが若手薬剤師の若さんに尋ねた。
「この薬、ほかの病院でもらっている薬と一緒に飲んでも大丈夫?」
待たせたくない。若さんはタブレットを開き、生成AIに二つの薬の名前を入力した。数秒で「併用に問題はありません」と返ってきた。文面は自信に満ちている。そのまま伝えると、患者さんは安心した顔で帰っていった。
閉店後、念のため電子添文を開いて、手が止まった。併用禁忌の欄に、その組み合わせがあった。少し前の改訂で、追加されたばかりだった。
これは、例え話です。では、もし若さんがAIの回答を信じ、併用禁忌を見落としたまま薬を交付し、患者さんに健康被害が起きていたらどうでしょうか。問題なのは、AIが間違えたことではありません。薬剤師が本来確認すべき併用禁忌を見落とし、「一緒に飲んでも大丈夫」と判断してしまったことです。
日本薬剤師会は、こうした確認不足によって健康被害が生じ、薬剤師に過失がある場合も調剤過誤と定義しています1)。「AIがそう答えたので、そのまま伝えました」では済みません。
薬剤師法第25条の2は、調剤した薬剤についての情報提供と薬学的知見に基づく指導を薬剤師に求めています。AIが回答を作っても、最終的に内容を確認し、患者さんに伝えるのは薬剤師です。
また、これは若さん一人の問題でもありません。日本薬剤師会は、調剤過誤を薬局開設者にとっての「事業過誤」と位置付けています2)。スタッフがAIをどう使うかは、薬局全体で考える必要があります。
もちろん、AIをうまく使えば、情報整理や説明文の下書きは大きく効率化できます。問題は、「どこまでAIに任せるか」です。何に使ってよいのか。何を入力してはいけないのか。AIが出した情報を、誰が、何で確認するのか。スタッフ任せにせず、薬局全体で共有できるルールが必要です。
では、そのルールを、どうすれば分かりやすく、日々の業務でも使いやすくなるのか―。そこで思い浮かんだのが、「添付文書」です。
●AIの添付文書を作る
私たち薬剤師にとって、電子添文は、見ない日はないくらい身近な資料です。医薬品について何か確認したいことがあると、真っ先に開きます。効能も用法も、警告も相互作用も、一つの文書で把握できます。迷ったら、これを見る。最も信頼できる情報源と言えます。
ところが、生成AIには、添付文書のようなものがありません。何に使えて、何に使ってはいけなくて、どんな「副作用」があるのか―。薬局向けのAIに関する共通の添付文書は、私の知る限りまだ誰もまとめていません。
そこで、これから数カ月かけて、「生成AIの添付文書(非公式版)」を作っていきます。もちろん、AIは薬ではありません。添付文書の項目立てをモチーフに、薬局で生成AIを活用できる作業と、活用してはいけない作業の線引きを考えていきます。併せて、薬局業務におけるAIの具体的な活用方法も紹介していきます。
●AIに頼れる部分と、頼れない部分
AIの活用が日常的なものになり、考えるようになったことが二つあります。一つ目は、AIに頼れる部分と頼れない部分の線引きです。例えば、文章の下書きには使えるけれど、疑義照会が必要かどうかの判断には使えないなどです。
二つ目は、AIに自分が飲み込まれないことです。便利さに慣れると、確認せずに内容をそのまま使ってしまいそうになります。
今回は、警告と禁忌を中心に考えます。効能、つまり「どんな場面で使えるか」は、今後の連載で書き足していきます。
●警告と禁忌は、何が違うのか
復習になりますが、警告と禁忌の違いは何でしょうか。警告は、致死的または極めて重篤かつ非可逆的な副作用や、重大な事故につながる恐れがあり、特に注意すべき事項です。禁忌は、症状、既往歴、体質、併用薬などからみて、投与すべきでない患者や条件です。
AIの添付文書では、警告には「守らないと重大な問題につながる使い方の注意」を、禁忌には「してはいけないこと」を当てはめることにしました。
そう考えてみると、禁忌の一つ目は、「患者を特定し得る情報を入力しないこと」です。二つ目は、「使うサービスは、所属施設で承認されたものに限ること」です。
●怪しいと思ったら、AIガチャを回す
AIは、存在しない論文を出典として挙げることがあります。著者名も雑誌名も、いかにもありそうなのに、PubMedで探してみると、どこにも見当たらない。こんなことがあります。実在する論文であっても、著者名や巻号、DOIが少しずつ違っていることがあります。
論文だけではありません。原文にはない記載を、あたかも書かれているかのように引用してくることもあります。にもかかわらず、AIの回答をさっと読んだだけでは、ほとんど違和感がありません。このように、もっともらしいけれど誤った情報を生成することを、ハルシネーションといいます。
そのため、組成・性状欄には、こう記載しました。「流暢で、自信に満ちた文章を呈する」。流暢さは、正しさの保証ではありません。書かれていることが本当に原文にあるのか、引用された文献が実在するのか―。そこを確かめることが重要です。
●同じ答えでも、正しいとは言えない
私の確かめ方は単純です。一言でいうと、「回しまくって、AI査読」です。
正直、AIはガチャです。同じ質問をしても、毎回まったく同じ答えが返ってくるとは限りません。最近、本人には選べない条件や、やってみるまで結果が分からないものを「○○ガチャ」と呼ぶようになりました。AIの回答も、それに近いところがあります。
そこで、1回聞いて終わりにはしません。同じ質問をもう一度してみる。聞き方や言葉を少し換えてみる。ChatGPTだけでなく、ClaudeやGeminiなど、別のAIにも同じことを聞いてみる。AIの回答を別のAIに見せて、「こういう回答があるのだけど、どう思う」と聞いてみることもあります。
ただし、都合のよい回答や、当たりらしい答えが出るまで回すわけではありません。何度か回して、回答がどこで揺れるのかを見ます。AIによって回答が違う、聞き方を変えると結論が変わる、説明が食い違う―。そこが、まず疑って確認するところです。
回答が異なれば、少なくともどちらかは誤っています。一方、同じ回答が何度返ってきても、それだけでは正しいとは言えません。複数のAIが、同じ誤りをしていることがあるからです。
この確認作業を、私は「AI査読」と呼んでいます。もちろん学術論文の査読ではありませんが、少なくとも、一つの回答をそのまま信じないための合言葉です。
●最終的には、一次資料に戻る
最終的には、一次資料に戻ります。論文なら、タイトル・著者名・DOIを、PubMedや雑誌・出版社のサイトで確かめます。AIが「添付文書にこう書いてある」と言ったら、電子添文を開いて、その記載が本当にあるかを確認します。
このチェック作業は、面倒です。でも、やるしかありません。それでも、自分で最初から調べるよりは早いと感じます。AIに出典やそのURLも示すように求めると、査読を効率的に行うことができます。
●おわりに
今回は、以上の内容を、AIの添付文書に書き加えました(図)。AIは、薬局の日常業務にもどんどん入ってきます。その便利さに飲み込まれないためには、まずは、警告と禁忌について線引きし、薬局内でもルール化しておくことが大切です。

項目立ては医療用医薬品の電子添文の記載要領3)、4)に倣った。今回記載したのは、警告(3行)、禁忌の1行目、組成・性状、用法及び用量、重要な基本的注意の5項目。連載の進捗を示すため、今後追記する項目は空欄で残している(実際の電子添文では、記載内容のない項目は省略される)。毎回、1〜2項目ずつ書き足し、最終回に完成させる。
■文 献
1)日本薬剤師会:薬局・薬剤師のための調剤行為に起因する問題・事態が発生した際の対応マニュアル、2014年1月(アクセス日:2026年8月16日)
2)日本薬剤師会:薬局・薬剤師のための医療安全にかかる法的知識の基礎(第2.1版)、2022年6月(アクセス日:2026年8月16日)
3)厚生労働省:医療用医薬品の電子化された添付文書の記載要領について(2021年6月11日薬生発0611第1号)(アクセス日:2026年8月2日)
4)厚生労働省:医療用医薬品の添付文書等の記載要領の留意事項について(2023年2月17日薬生安発0608第1号)(アクセス日:2026年8月2日)









