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【無料公開】悔しさ抑え災害支援「被災薬剤師のリアル」

穴水町の竹端氏、自薬局は再開できず「こんな時に役立てない」

2024/1/12 16:46

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被災した河合薬局(竹端氏提供)

 石川県穴水町にある河合薬局の薬剤師、竹端裕氏は1日、妻と2人で珠洲市に墓参りをした帰り道、自動車を運転中に大きな揺れに遭った。道路には亀裂が走り、道を走ることができなくなった。七尾湾に注ぐ小又川の河口近くの自宅に残してきた母と中高生の子ども3人の安否は、バッテリーが切れる前に辛うじて通じた電話で確認できた。津波から逃れるために高台に避難していたという。暗い夜道の運転は危険だと判断し、近くの駐車場で一夜を明かした。

 2日、夜明けとともに自宅に向けて移動を始めた。普段なら1時間余りの道も、通行止めで迂回したり、ひび割れた道を無理して通ったりして、家族と合流できたのは日没後の午後5時ごろだった。母と子どもが一晩を過ごした避難所は椅子で寝ざるを得なかったと聞き、自宅前に止めた大型ミニバン1台に6人で車中泊した。自宅兼店舗の被災状況は暗いため、分からなかった。

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棚が傾き、陳列していた物が散らばった店舗内(竹端氏提供)

 3日、ようやく自宅兼店舗の状況が確認できた。2007年の能登半島地震により半壊した旧店舗を改築した店舗部分は、建物自体はほぼ無事だったが、内部には物が散乱し、調剤室に足を踏み入れられない状態だった。自宅など未改築の部分は「残っている」だけ。改築した建物とのジョイント部分は破損し、壁は落ち、雨漏りもしていた。それでも4日から穴水町から金沢市内に避難するという在宅患者のために、作り置きしていた処方薬を探し、家族に渡した。

●患者を気遣い避難所に

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壁が剥がれ落ちた自宅(竹橋氏提供)

 片付け作業をしながら、近くの避難所2カ所に顔を出し、顔見知りの患者に「薬は持って出た?」「体調は大丈夫?」と声をかけて回った。電話も電気も通じていない。唯一の情報源はカーナビに映すテレビニュースだけ。この日から店舗2階の応接室として使っていた部屋で、6人一緒に寝ることにした。大みそかぶりに足を伸ばして寝ることができた。

 4日は「明日から薬がない」といつも来局している患者が2人、薬局を訪ねてきた。「いつもの薬」を探し、渡した。

 ほかの患者の様子も気になったので、避難所にもなっている役場に行くとWi-Fiが通じていた。ここで被災後初めて「外部」とつながった。安否を気にかける連絡が、スマートフォンに100件以上入っていた。自身が常務理事を務める石川県薬剤師会とも、ようやく連絡が取れた。この日の夜、オンラインであった臨時の常務理事会に出席するため、Wi-Fiの通じる役場まで真っ暗な道を歩いた。会議の冒頭だけ参加し、被災地の状況を伝えた。

●「公の仕事」始まる

 5日も役場の避難所に行くと、地元の診療所の医師に同行している県薬能登北部支部長の原将充氏と偶然出会った。組織として、被災者支援が動き始めていることを知り、DMAT(災害派遣医療チーム)のミーティングも定期的に開かれていると聞いた。このとき、自分の患者の慢性期疾患について災害処方箋が発行されていたため、自店舗で調剤した。

 6日、災害支援で集まった医療従事者のミーティングに初めて参加した。竹端氏にとっての「公の仕事」が始まった。7日、穴水町に入った県薬役員と福井県薬の薬剤師2人と合流し、薬剤師の拠点を作るべく、保健センターの一室を確保できないか行政と折衝した。また、県薬が持ってきたOTC医薬品を、07年の地震の際に作成し、地域住民への配布後に余っていた「救急箱」に仕分けして、避難所に置いて回った。

 8日は、めまいがひどく休んだ。3日に店舗兼事務所を整理していたとき、落下した建物の一部が頭にぶつかった影響かもしれないと感じたが、被災者支援に回っている医療従事者の負担になりたくなかったため、受診はしなかった。

●心が折れそうになっても

 9日は体調が回復した。穴水町内で保険調剤をしている薬局7店舗のうち、いくつかの店舗は電気が通り、処方箋の受け付けを始めていた。院外処方箋の受け付け薬局がリスト化されたが、竹端氏の店舗は電気が復旧していないため選ばれなかった。「こんなときに役に立てない。自分の患者をみれないなんて悔しい」。周りの薬局は営業を再開しているのに「自分のところだけ取り残されたように感じた。心が折れそうになった」。

 それでも「今の自分にできる、公の仕事をしよう」と、気持ちを切り替えた。保健センターに設けた拠点で、県薬と行政をつなげる役割を担い、派遣薬剤師が訪問して集めてきた避難所・避難者のニーズと、現地薬局の復旧状況を照らし合わせ、「今、穴水で求められている体制」を考えた。

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応援にきた薬剤師に「穴水スキーム」を説明する福井県薬の薬剤師。竹端氏は中段右端(10日撮影)

 派遣薬剤師が増えることを見越し、感染症など急性期疾患の災害処方箋はモバイルファーマシーが、それ以外の慢性期の処方箋は地元薬局が応需する「穴水スキーム」を、原氏や福井県薬の薬剤師2人と一緒に10日までに作り上げた。11日からは実際に稼働している。

 自店舗の復旧時期は見通せない。まずは電気が通じ、店内が明るくならないと、詳しい被災状況は分からない。工務店に修繕を依頼しないと営業を再開できない状態かもしれない。だが、当面は「公の仕事」に取り組む。11日も避難者の支援のため、保健センターに詰めて、県外から派遣された薬剤師に避難所を巡回してもらった。「全国の薬剤師の仲間、さまざまな医療従事者の支援に心から感謝している」。

 竹端氏は11日夜、じほうの取材に応じた。石川県によると、11日午後2時現在、1日に発生した能登半島地震による死者は213人(うち災害関連死8人)、安否不明者37人。市町が設けた避難所数は計400カ所(輪島市167カ所、珠洲市67カ所、能登町62カ所、穴水町44カ所など)、避難者数は計2万3650人(輪島市1万562人、珠洲市5319人、能登町2409人、穴水町1884人、七尾市2008人など)。2次避難所など県避難所8カ所には計388人が避難している。(折口 慎一郎)

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