発生から3カ月が経過した能登半島地震。特に能登北部は被害が甚大で、当初は医薬品供給体制の確保が危ぶまれた。そうした中で石川県は、地場の薬局チェーンから提案を受け、能登北部の公立病院の院外処方箋を金沢市の薬局で応需し、卸が各病院に薬を配送するスキームを暫定的に導入した。被災地では対応が難しい慢性期の薬などの供給を「後方」から支え、一定の成果を上げた一方、対応したのが1薬局のみだったことから一部で反発も招いた。
同スキームを提案したのは、県内を中心に「あおぞら薬局」を約40店舗展開するグランファルマ(金沢市)だ。能登北部では、同社の店舗を含めて多くの薬局が被災した。同社の柴田剛介社長は発災直後、現地の詳しい状況が分からない中で、院外処方が出されても処方薬の供給ができないという「最悪のケース」を想定し、同スキームの運用を決断したという。
●1カ月で約2000枚を応需、ほとんどが「慢性期の薬」
金沢市の「鞍月あおぞら薬局」内に同社の災害対策本部を設置し、15人体制で同スキームの対応を担った。1月5日の運用開始から1カ月ほどで、輪島市立輪島病院、能登町の公立宇出津総合病院から送られた約2000枚の院外処方箋に対応した。
多くは慢性期の薬だったという。柴田氏は、DMATやモバイルファーマシーが対応するのは主に急性期の薬で、「慢性期の薬を被災地で取りそろえるのは難しい」と指摘する。応需した処方箋の枚数を踏まえても、被災地への医薬品供給に同スキームが一定の効果を発揮したと言える。
●複数薬局での応需が理想
一方で、一部の薬局関係者からは同スキームの問題点を指摘する声も上がった。その問題点とは、①1薬局で院外処方箋を応需するのは療養担当規則に抵触する可能性がある②他の薬局が復旧しても同スキームの運用が続いた③薬剤師法で義務付けられている情報提供や服薬指導が実施困難④医薬品医療機器等法で禁じられた調剤業務の外部委託に該当しかねない―の大きく4つだ。
①については、石川県薬剤師会の中森慶滋会長が、特定の保険薬局への誘導を禁止している療担規則に抵触する可能性があるとして、複数企業の薬局と卸を同スキームに加えるよう県に要望した。その後、県と県薬それぞれが協力薬局の追加に動いたが、最終的には実現しなかった。
グランファルマ側は「被災者の命を守るための緊急的な対応であり、独占的に処方箋を応需する意図は全くない」としており、県も「他の薬局の応需や院内処方の対応を拒むものではない」ことから療担規則上の「問題はない」との見方を示している。
ただ、療担規則の問題はともかく、複数薬局で応需するスキームの方が対応できる処方箋の量や幅、対象エリアは広がっただろう。1薬局だからこそ迅速な対応が可能だった部分はあるだろうし、同社が他薬局の参加を拒んだわけでもないが、県薬の会営薬局を含めた複数薬局で応需する意義はあったと考えられる。
●復旧状況に合わせた運用修正
②に関しては、グランファルマ側は可能な限り周囲の復旧状況を把握し、運用の修正に努めたと主張する。例えば輪島地域では、周辺薬局の復旧に合わせて、「輪島あおぞら薬局」に処方箋を持参した患者にのみ同スキームを案内していた。宇出津総合病院周辺地域では、他社の薬局が復旧するまでの「つなぎ役」を担ったことで、地域の医薬品供給体制を保つ一助になったという見方はできそうだ。
●調剤はせず「入力」と「仕分け」のみ
また、当初の予定では金沢の薬局で調剤するはずだったが、運用開始時点で輪島や宇出津にある同社店舗の薬剤師が対応できる状態にあったため、金沢の薬局では「処方箋データの入力」と「医薬品の仕分け」のみ対応し、調剤と服薬指導は現地の薬剤師が行った。このため、③や④のような問題はなかった。
その上で柴田氏は、災害時においては特例的に「調剤業務の外部委託」を導入する有用性があると指摘する。他方では、災害時に限ったとしても「外部委託解禁という言葉が独り歩きする可能性がある」として反対する声も根強い。災害時の超法規的措置がどこまで可能かを含めて、今後検討の余地はありそうだ。
中森氏は今回の事例を振り返り、当事者たちは「みんな善意で行動していたことは確か」と話す。災害時は混乱やすれ違いがつきものだ。だからこそ、それをなるべく避けるために事前の連携や関係性構築が重要になる。同スキームを次の災害時に生かすため、関係者の間で建設的な議論が必要だ。(持丸 拓也)