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【無料公開】「かかりつけ患者の処方箋も金沢に」

石川県薬、院外処方応需スキームで県に不満

2024/1/12 21:55

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石川県が発出した事務連絡

 能登半島地震で被災した能登北部・中部地域の公立病院の院外処方箋を金沢市の薬局で応需し、卸が各病院に医薬品を配送する石川県の医薬品提供スキームについて、石川県薬剤師会の中森慶滋会長は12日、じほうの取材に応じ、応需薬局を1店舗のままにしている県の対応について「療担規則に抵触する可能性がある」と話した。すでに県に対して、このスキームに複数企業の薬局、卸を加えるよう要望している。また、同スキームが適用された病院近くにある、営業を再開した薬局からは、「かかりつけの患者の処方箋まで金沢に送られている」という声も上がっているとし、早急な運用改善も求めている。

 石川県は4日付で「能登半島地震に伴う医療提供体制について」と題する事務連絡を石川県薬に発出。能登北部・中部の公立6病院について「院外処方箋を金沢市の薬局で一括して応需し、卸業者が各病院へ配送するスキームを調整した。会員に周知してほしい」とした。

 事務連絡では、あくまで「被災地の医薬品供給体制が整うまでの暫定的なもの」とも説明。「他の薬局の応需や院内処方の対応を拒むものではない」とも記載している。

 この事務連絡に対して、中森会長は「特定の保険薬局への誘導」を禁じる療担規則を踏まえ、「了承できない」と対応。仮に運用するとしても、「複数企業の薬局、卸を加えてほしいと健康福祉部長に伝えた」という。じほうの取材に対して、「このスキーム自体は否定しないが、応需する薬局は民間よりも非営利法人の金沢市薬剤師会会営薬局を含めた複数薬局のほうが適切ではないか」と話す。

●スキーム自体は効果的だが…

 現場からは、この配送スキームの不備を指摘する声が上がる。公立6病院の1つである、町立富来病院(志賀町)近くにある面薬局、笠原健招堂薬局の薬剤師、笠原友子氏は「かかりつけの患者から『希望していないのに処方箋が金沢に送られた』という声も出ている」と説明。同薬局は4日時点で処方箋の応需を再開しており、本来ならば地元の薬局で応需すべきだった処方箋も金沢市内に送られているとみている。

 町立富来病院の門前薬局は、グランファルマ(金沢市)の経営する「富来あおぞら薬局」のみ。配送スキームでは金沢市内の同社系列店舗に院外処方箋が送られることを踏まえ、笠原氏は「普段、富来あおぞら薬局に通っていた患者の処方箋までは私の店舗で対応しきれないので、このスキーム自体は効果的。だが、一律で全ての処方箋を金沢に送られると、地元のかかりつけ薬局に行けずに不安に思う患者もいる」と、各病院周辺の薬局の復旧状況を踏まえた対応を県に求めている。

●療担規則以外の法制度抵触、指摘する向きも

 療担規則のほかにも、今回の配送スキームの法的な立て付けを気にする向きもある。日本薬剤師会の関係者の一人は、薬剤師法で義務付けられている情報提供や服薬指導が同スキームで実施できるのかを疑問視。特定の薬局が特定の病院から処方箋を応需し、処方薬を届ける形態は、病院の指示に基づく調剤に該当しかねず、「病院の調剤業務の委受託と見なされかねない」と指摘する。

 県健康福祉部薬事衛生課はじほうの取材に対して「被災地ごとに異なる医療提供体制の復旧状態を踏まえ、実際の運用実績を検証しつつ、今後の対応を検討する」とした。

●厚労省「状況確認する」

 厚生労働省医薬局総務課は同スキームの存在自体は把握しており、「詳しい状況を確認する」と答えた。(折口 慎一郎)

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