石川県薬剤師会の中森慶滋会長が今月18日に能登半島地震の影響による医薬品不足の解消を武見敬三厚生労働相に直談判したのを受け、被災地への限定出荷品の優先供給に本格的に乗り出す企業が出始めた。東和薬品は直談判の翌19日に石川県薬に優先供給できる23成分39品目のリストを提供。ほぼ全てが限定出荷品で、このうちの一部はすでに優先供給していたが、25日からリストの全製品について優先供給を開始した。
同社で北陸地方を担当する営業五部 富山・石川・福井エリア エリアマネージャーの正田幸多氏(41)が25日、日刊薬業のオンライン取材で明らかにした。
●4日からニーズ調査を開始
正田氏が所属する営業五部 富山・石川・福井エリアは、医療機関へのMR活動と、医薬品の卸先であるジェネリック販売会社(GE販社)2社と広域卸2社との情報共有が主な業務で、営業開始日の4日から販社、卸に被災地で必要な医薬品のニーズの調査を自発的に始めた。
日本医薬品卸売業連合会と石川県薬業卸協同組合が9日付で、被災地への医薬品の優先供給を日本製薬団体連合会や製薬企業に要請する前から東和は準備を始めていた。
卸が能登半島の医療機関や薬局への医薬品配送業務で多忙を極めていたことから、正田氏が被災地で鎮咳薬、去痰薬、抗菌薬などのニーズが高まっているとMSから聞けたのは10日だった。
正田氏は把握したニーズを本社に報告。それを受けて本社は全国的な限定出荷の解除には至らないものの、医薬品不足に対応した増産により積み上がっていた在庫や不測の事態に備え準備している医薬品を北陸地方に回すよう手配した。そして16日からGE販社を通じて一部の製品について優先供給を開始した。
●直談判翌日に石川県薬会長と面会
一方、中森会長は18日、被災地で必要とされる医薬品を確保するため、現地視察で石川県庁を訪れた武見厚労相に限定出荷の解除を直談判。厚生労働省は、解除には踏み込まなかったものの、被災地に限定出荷品を優先供給するように求める事務連絡を同日付で日薬連などに出した。
正田氏は18日に、中森会長が「医薬品不足が解消されていない」と武見厚労相に直談判しているニュースを知った。「自社で提供できる製品があることを早く知ってもらいたかった」ことから、翌19日に中森氏の経営する薬局を訪れ、23成分39品目の優先供給リストを提示した。
●鎮咳・去痰薬、解熱鎮痛剤、抗菌薬など
このうち鎮咳薬デキストロメトルファン、去痰薬カルボシステインや解熱鎮痛剤アセトアミノフェン、気管支喘息・アレルギー性鼻炎治療剤モンテルカスト、抗菌薬クラリスロマイシンなど38品目は限定出荷品で、通常出荷は抗インフルエンザウイルス剤オセルタミビルの1品目のみとなっている。
●昨年10~12月比140%増の品目も
リストには、石川県薬が要望している製品が多く含まれている。品目ごとに2023年10~12月に被災地エリアで供給した錠数と比べ何錠追加で提供できるかも記されている。中には10~12月実績の140%増の錠数を追加で供給する製品もある。
これら品目について、東和薬品は25日から広域卸を通じた優先供給を開始。卸にまとまった量を供給し、どの被災地に供給するかを判断してもらう。
●中森会長「本当に助かっている」
中森会長は日刊薬業の取材に「早速動いてくれて目に見える形でリストも提示してくれて本当に助かっている」と謝辞を述べた。県内の医薬品の供給状況については、「依然として限定出荷は続くが、卸に供給を求めれば融通してくれる製品も出てきた」と説明した。
●正田氏、「メーカーの使命として今後も取り組む」
正田氏は千葉県に暮らす家族の元を離れ金沢市内で単身赴任の生活をしている。4日以降、医療機関、薬局からの求めに応じるため土日も会社の携帯電話を常時持ち、メールもまめに確認する毎日を送る。
正田氏は部下のMRも含め発災後、道路事情などから能登半島の医療機関を訪問していないが、医療機関からの相談に電話やメールで対応する日々が続いている。
先日も能登半島の医療機関から金沢市方面に2次避難する患者が移転先の医療機関でも確実に服用する薬の供給が受けられるよう手配を求められるなどの要請が部下のMRに入りチームとして対応したという。
正田氏は「医薬品メーカーとしてできることをしっかりやる。必要な情報を常に提供し、復興にどれほど時間がかかるか分からないがメーカーの使命として今後も取り組んでいきたい」と意気込みを述べた。【日刊薬業】