特集災害と闘う

【無料公開】「手持ちの薬がない」の声、避難所の今

被災地視察した石川県薬の乙田氏「衛生管理も課題」

2024/1/5 19:50
20240105noto1.jpg
能登半島地震の被災地(石川県薬提供)

 能登半島地震で甚大な被害を受けた能登半島北部の拠点病院や避難所を視察した石川県薬剤師会の乙田雅章常務理事は5日、じほうの取材に応じ、「避難所では、看護師から『手持ちの薬がない(避難者がいる)』という声も聞かれた。(過去の大規模災害と同様に)薬剤師が定期的に巡回し、処方薬の聞き取りから医薬品の手配までを担わないといけない」と話した。今後、県外からの薬剤師派遣を含めて行政と対応を調整する。

 乙田氏ら県薬の役員3人は4日、能登北部の、▽公立穴水総合病院(穴水町)▽珠洲市総合病院(珠洲市)▽公立宇出津総合病院(能登町)―を訪問した。いずれも電気は通じているため診療を続けているが、断水していた。穴水総合病院では門前の薬局2軒が営業できなくなったため、急きょ、その薬局薬剤師が病院薬剤部に加わり、調剤業務に当たっているという。宇出津総合病院は処方箋を応需できる薬局が近隣に1店舗だけになったため、院内処方に切り替えた。

 珠洲市総合病院とは、この日まで連絡が取れていなかった。現地を訪れた乙田氏は「病院周辺だけでなく町中のほとんどの人が避難していた」と被害状況を振り返る。営業を続けている診療所も限られる状況だが、「珠洲市総合病院に患者が殺到している様子はなかった。避難者の多くが避難所から動けず、受診できていないのでは」(乙田氏)とみる。

●薬剤師の支援で治療継続を

20240105otuda.jpg
取材に応じた石川県薬の乙田氏

 乙田氏らは、珠洲市内の避難所も訪問した。看護師から「手持ちの薬がない」「服薬していない人も出てきている」という声が寄せられたという。津波から逃れるため、処方薬やお薬手帳を持たずに避難した人も多いとみられ、「治療を継続するためにも、手元にある処方薬の鑑別や普段飲んでいる薬の聞き取りが必要になる」と話す。

 具体的な支援内容は今後、行政と調整する。現時点では、日本医師会災害医療チーム(JMAT)で派遣された医師らと連携し、お薬手帳などを基に災害処方箋を発行してもらい、医薬品を集約している輪島、珠洲両市に設けた災害支援の拠点から、各地の避難所に配送する形を想定。同拠点には、それぞれモバイルファーマシーも出動させる方針だ。

●300カ所近い避難所「県外からの応援依頼も検討」

 能登北部の避難所数は、5日午前10時時点で293カ所。内訳は、▽輪島市154カ所、避難者数1万2834人▽珠洲市21カ所、6981人▽穴水町46カ所、3625人▽能登町72カ所、4930人―。乙田氏はこれら避難所の対応も含み、2カ所の災害支援拠点に各10人程度の新たな薬剤師が必要だと考えている。「宿泊施設もない状況。2~3日で交代することを考えると、県外からの応援依頼も検討しないといけない」と話す。

 避難所も断水が続く。そのため、トイレなどは劣悪な状況だったという。マスクも少なく、衛生用品が求められている。

 乙田氏によると、出発地の金沢市から珠洲市まで通常2時間半程度だが、今回は到着まで5時間程度を要した。途中の道路で隆起やひび割れ、土砂崩れによる片側通行があったためで、迂回せざるを得ない道も多かったという。輪島市内の医療機関・薬局の視察は「金沢市から片道10時間程度かかる」ため、今回は見送った。(折口 慎一郎)

前のページへ戻る

関連記事

団体・学術 一覧一覧

特集・連載:災害と闘う一覧

自動検索(類似記事表示)